旅館業界_成功事例レポート
目次
1. 冒頭概要
旅館業界は「客室数×稼働日数」が売上上限になりやすく、稼働率が落ちると固定費(人件費・光熱・修繕)の吸収が一気に悪化します。加えて、採用難・多能工化不足でサービス品質がブレやすく、OTA依存による手数料と価格競争が粗利を圧迫しがちです。
一方、顧客は“体験価値(食・風呂・眺望・地域性)”と“予約のしやすさ(直販・決済・多言語)”を同時に求め、口コミと再訪(LTV)が差を生みます。
支援制度が効きやすいのは①販路(直販導線/広告/インバウンド)②省力化(予約・清掃・連絡のDX/標準化)③高付加価値化(客単価を上げる改装・新サービス)です。
成功パターン総括:
- ①“部屋数を増やさず”客単価と稼働率(稼働の質)を上げる(例:貸切湯・個室食・高単価プラン)
- ②DXで「現場のムダ時間」を減らし、浮いた時間を接客に再配分してレビューと再訪を上げる
- ③地域連携で「その宿でしかできない体験」を作り、広告費の代わりにUGC/紹介を増やす。
2. 成功事例(A〜H)
A社(東京都・奥多摩町)
| 1. 会社名・個人事業主名 | A社(旅館業/首都圏:東京都) |
| 2. 切り口 | ・新商品・新サービス |
| 3. 会社概要 | 創業100年超の老舗旅館。客室数は小規模で、宿泊売上に加えて宴会・法事・飲食が売上の重要な柱になっているタイプ。スタッフは少人数(パート比率高め)で、繁忙日に業務が集中しやすい。自然資源(渓流・山)を目的に来訪する観光客が多い一方、都心からのアクセスの良さゆえ日帰り客も多く、宿泊客だけに依存すると稼働が季節要因に左右されやすい。 |
| 4. 当初の課題・挑戦 | 【業界構造】「客室×稼働」が上限のため、客室数を増やさずに売上を伸ばすには“客単価”と“宿泊以外の売上”を積み上げる必要がある。一方で地方旅館は、①OTA依存で粗利が削られる、②海外客対応(情報発信/決済/通信)が弱い、③少人数運営で新規施策の工数が捻出できない、という制約がある。 |
| 5. 取組み・成功のポイント | 【施策】①旅館内の一角を改装し、宿泊客以外も入れる小規模な食事処を新設(“宿泊外売上”の柱化)②客室を減らして貸切湯を導入し、客単価を上げる設計へ(“稼働の質”を上げる)③HPを全面改訂し、写真・スマホ導線・直予約を実装。英語ページ、Free Wi-Fi、カード決済も合わせて整備し、海外客の不安要因を最小化。 |
| 6. 成果・今後の展望(定性+定量) | 【定量】週末稼働率はほぼ100%を達成、海外客の問い合わせが月1〜2件、海外からの宿泊客も月1〜2組レベルで発生(出典数値)。宿泊売上と宴会・飲食売上が併存する収益構造(例:宿泊55%・飲食等45%)を前提に、食事処が“宿泊外需要”の受け皿になった。 |
| 7. 補助金・助成金の活用 | 活用済:小規模事業者持続化補助金(一般型・要確認)/使途:HP全面改訂(プロ撮影・スマホ対応・英語ページ・直予約導線)/採択の論点:『情報発信→直予約→稼働率・客単価向上』の因果を、投資内容(HP制作)とKPIで説明できた点。 |
| 8. リンク先(出典) | ①日本政策金融公庫「生衛のアイデア」事例PDF: https://www.jfc.go.jp/n/findings/seiei-idea/pdf/jirei2809.pdf (「東京都奥多摩町」「旅館荒澤屋」の章) |
B社(神奈川県・箱根町)
| 1. 会社名・個人事業主名 | B社(旅館業/首都圏:神奈川県) |
| 2. 切り口 | ・データ活用 |
| 3. 会社概要 | 温泉地で複数施設を運営する中堅規模の旅館グループ。低価格帯でも品質を保つため、チェーン運営に近い発想で業務を標準化・集中管理し、予約の大半をオンラインで獲得するモデル。現場は清掃・フロント・設備管理など多職種が同時並行で動くため、情報伝達の遅れが「ムダな移動」「設備トラブル対応の遅延」「クレーム」に直結する。人材は入替も起こりやすく、教育コストと品質の平準化が経営課題になりやすい。 |
| 4. 当初の課題・挑戦 | 【業界構造】宿泊は“当日の体験”が商品だが、裏側は高頻度のオペレーション(清掃・温泉設備・売店・送迎)で成り立つ。人手不足下では、連絡手段が電話/FAX/紙に残ると、①共有漏れ→二度手間、②対応遅れ→クレーム、③教育が属人化→品質ブレ、が起きやすい。 |
| 5. 取組み・成功のポイント | 【施策】①グループウェアで連絡を一本化し、温泉設備や来客検知などのIoT通知を連携(現場の初動を早める)②センサー情報(トイレ利用など)を取り込み、清掃人員配置を“前日データ”で最適化③電子マニュアルで手順を動画/画像で共有し、改訂を即時反映。 |
| 6. 成果・今後の展望(定性+定量) | 【定性】設備操作の抜け・漏れを防ぎ“温泉を確実に提供”できる体制を整備。来客通知により先回り対応が可能になり、サービス品質向上に寄与。清掃は利用状況に応じて投入人数を調整でき、繁忙日のボトルネックを緩和。 |
| 7. 補助金・助成金の活用 | 未活用(出典上、補助金活用の記載なし)。※同種の取り組みはIT導入補助金(ソフト/クラウド)や自治体DX助成の対象になりやすい。 |
| 8. リンク先(出典) | ④中小機構「ここからアプリ」導入事例: https://ittools.smrj.go.jp/case/cp577f0000004vhb.html(B社のリモート/IT導入事例) |
C社(埼玉県・秩父市)
| 1. 会社名・個人事業主名 | C社(旅館業/首都圏:埼玉県) |
| 2. 切り口 | ・データ活用 |
| 3. 会社概要 | 温泉旅館として地域の観光需要(週末・連休)を主戦場にする中小規模の宿。宿泊予約のチャネルはOTAと直販が混在し、当日〜翌日の予約変動に現場が振り回されやすい。館内はフロント、予約、会計、清掃、食事提供が密に連動し、1つのミスが「二重予約」「請求漏れ」「過剰仕入れ」などの損失につながる。人員は限られ、繁忙期の残業や属人化が離職リスクを高める構造がある。 |
| 4. 当初の課題・挑戦 | 【業界構造】宿泊業は“ピークに合わせた人員配置”が必要だが、人手不足下ではピークの品質が落ちやすい。加えて、予約・会計・売上分析が別々の仕組みだと、数字が見えるのが遅れ、価格調整やプラン改善の判断が後手に回る。 |
| 5. 取組み・成功のポイント | 【施策】予約管理・会計データ等を統合し、リアルタイムで状況把握できる仕組みに刷新。さらにAIによる需要予測・料金調整の考え方を取り入れ、データに基づく運営へ寄せた。 |
| 6. 成果・今後の展望(定性+定量) | 【定量】業務量は感覚値で従来比3〜4割の効率化(出典数値)。これは、入力・確認・締めの削減に加え、運営判断の迷いが減る効果も含む。 |
| 7. 補助金・助成金の活用 | 活用済:IT導入補助金+埼玉県内のDX関連補助(要確認)/使途:予約・会計等のデータ統合、運営可視化、AI活用のためのIT投資/採択の論点:『業務効率化(工数削減)→生産性向上→サービス品質/売上改善』を、削減率(3〜4割)などのKPIで説明できた点。 |
| 8. リンク先(出典) | ②埼玉県DX事例(掲載ページ): https://www.saitamadx.com/post/100 (「和銅鉱泉」旅館のDX事例) |
D社(神奈川県・横須賀市)
| 1. 会社名・個人事業主名 | D社(旅館業/首都圏:神奈川県) |
| 2. 切り口 | ・店舗体験・動線/VMD |
| 3. 会社概要 | 海沿い観光地で家族・カップルを中心に集客する小規模旅館。繁忙期は週末・夏季に偏り、平日は稼働が落ちやすい。建物や設備の老朽化が進むと、レビュー評価が下がり予約単価が伸びず、値上げが難しくなる。また、浴場・客室・食事など“体験価値”の改善は投資額が大きく、自己資金だけではスピードが出にくい。 |
| 4. 当初の課題・挑戦 | 【業界構造】宿泊は“価格比較されやすい”一方、選ばれる理由は体験価値(風呂・食・眺望・プライバシー)に集約される。低単価のままでは人件費と修繕費を吸収できず、更新投資が遅れてさらに単価が下がる悪循環に陥る。 |
| 5. 取組み・成功のポイント | 【施策】県・市の支援制度を活用し、客室の付加価値を上げる改修(例:露天風呂付き客室化、個室食やプライベート空間の強化)を実施。合わせて、プラン設計と価格設定を見直し、“客室単価で稼ぐ”モデルへ寄せた。 |
| 6. 成果・今後の展望(定性+定量) | 【定性】“プライベート性”の強化により、家族・カップルの満足度向上と、価格受容性(値上げ余地)が広がる。 |
| 7. 補助金・助成金の活用 | 活用済:神奈川県「ビジネスモデル転換事業費補助金」+「宿泊事業者補助金」(制度名は要確認)/使途:客室の高付加価値化改修・新サービス造成/採択の論点:『付加価値投資→価格戦略→稼働率・単価・粗利の改善』を一体で示し、感染症下のニーズ変化(個室・非接触)に合致した点。 |
| 8. リンク先(出典) | ②横須賀商工会議所:支援事例ページ(「ビジネスモデル転換」「宿泊事業者補助金」の支援事例) https://www.yokosukacci.com/support_case/%E6%9C%89%E9%99%90%E4%BC%9A%E7%A4%BE%E7%A3%AF%E6%97%85%E9%A4%A8%E3%82%84%E3%81%BE%E3%81%AB/ |
E社(埼玉県・秩父地域)
| 1. 会社名・個人事業主名 | E社(旅館業/首都圏:埼玉県) |
| 2. 切り口 | ・事業連携 |
| 3. 会社概要 | 自然・温泉・食を目的に訪れる観光地で、個人客(30〜40代、女性グループ等)を中心に集客する小規模旅館。客室数が限られるため広告費を積むより、指名・紹介・SNSで“予約が埋まる状態”を作るほうが効率的。一方で、旅館単体の体験だけでは差別化が難しく、地域の飲食・体験事業者と連携して“滞在理由”を作ることが重要になる。 |
| 4. 当初の課題・挑戦 | 【業界構造】温泉地は似たようなサービスになりやすく、価格比較に巻き込まれる。OTA上では写真とレビューが主戦場で、体験の独自性が伝わりにくい。また、広告を増やしても客室数が限られるため、CPAを上げても売上上限にぶつかる。 |
| 5. 取組み・成功のポイント | 【施策】地域の飲食店・体験事業者等と連携し、宿泊+地域体験のセットプランを造成。SNS(Instagram)を軸に、体験の“絵”が伝わるコンテンツを継続発信し、UGC(投稿)を誘発。 |
| 6. 成果・今後の展望(定性+定量) | 【定性】旅館単体の比較から“地域体験込みの滞在”へ評価軸が移り、価格競争から一歩抜けやすい。 |
| 7. 補助金・助成金の活用 | 未活用(出典上、補助金活用の記載なし)。※プラン造成+発信は持続化補助金(チラシ/撮影/HP)や観光系の地域支援の対象になりやすい。 |
| 8. リンク先(出典) | ①ミラサポplus:企業間連携の好事例(埼玉県秩父市の旅館の事例) https://mirasapo-plus.go.jp/hint/19429/ |
F社(新潟県・温泉地)
| 1. 会社名・個人事業主名 | F社(旅館業/地方:新潟県) |
| 2. 切り口 | ・ITツール活用(業務効率化、自動化) |
| 3. 会社概要 | 温泉旅館として小規模運営を行う地域密着型の宿。スタッフ数が限られ、調理場とフロントが同時に回ることで、連絡・部屋割り・食事提供の段取りが複雑化しやすい。宴会需要の減少もあり、少人数でも回る“省力化”と、昼営業や外来需要の再開など“売上機会の再設計”が課題になりやすい。 |
| 4. 当初の課題・挑戦 | 【業界構造】宿泊業は、段取りのミスが品質事故(提供遅れ、食事間違い)につながる。人手不足で余裕がないほど、連絡・確認が増えて現場が回らなくなる“悪循環”が起こる。 |
| 5. 取組み・成功のポイント | 【施策】IT導入補助金を活用し、部屋割り・食事の連絡・調理場への指示などをシステム化/自動化。フロントと厨房の情報が同期し、確認のための移動や口頭連絡を削減した。 |
| 6. 成果・今後の展望(定性+定量) | 【定量】スタッフを6名から5名に減らしても運営可能となり、利益が増加、昼食営業の再開にもつながった(出典数値)。 |
| 7. 補助金・助成金の活用 | 活用済:IT導入補助金/使途:部屋割り・食事連絡・厨房指示のデジタル化(自動化)/採択の論点:『工数削減→省人化・利益改善→新サービス(昼営業)』までのKPIの道筋が明確だった点。 |
| 8. リンク先(出典) | ①ミラサポplus:IT導入補助金の活用事例(旅館) https://mirasapo-plus.go.jp/hint/20874/ (「部屋割りも調理への連絡も、自動化でスムーズ」) |
G社(千葉県・鋸南町)
| 1. 会社名・個人事業主名 | G社(旅館業/首都圏:千葉県) |
| 2. 切り口 | ・資金調達 |
| 3. 会社概要 | 房総エリアで複数の旅館を運営し、高稼働を実現している宿泊事業者。強みは“地元漁港の漁業権を持ち、新鮮な魚を安価に仕入れて提供できる”という調達優位性と、海沿い立地を活かした体験価値。台風被害からの復旧を経て、新館を新設し高級帯に踏み込む投資を行った。 |
| 4. 当初の課題・挑戦 | 【業界構造】宿泊の差別化は、立地・食・風呂・客室体験で決まるが、投資額が大きい。需要回復局面では“高付加価値”への投資が効く一方、資金繰りが弱いと機会を逃す。 |
| 5. 取組み・成功のポイント | 【施策】金融機関と政策金融を組み合わせた協調融資で建設資金を確保し、新館を全室露天風呂・オーシャンビューテラス付きの高級仕様で開業。強みの食材調達(地元魚)を“体験の核”として打ち出し、客室体験(眺望・プライバシー)とセットで高単価プランを設計した。 |
| 6. 成果・今後の展望(定性+定量) | 【定量】運営する旅館はいずれも稼働率90%超(出典数値)。新館開業により、高単価帯の売上機会が増え、地域(鋸南町)の活況回復も期待される。 |
| 7. 補助金・助成金の活用 | 未活用(公的融資の活用:協調融資)。※同種の投資は、状況により事業再構築補助金/省エネ補助等の対象になる場合もある。 |
| 8. リンク先(出典) | ②日本政策金融公庫×京葉銀行 ニュースリリースPDF: https://www.jfc.go.jp/n/collabo/pdf/J213-T_minami_kanto_200219_200122.pdf (千葉県鋸南町の旅館業者の新館建設支援) |
H社(石川県・加賀市)
| 1. 会社名・個人事業主名 | H社(旅館業/地方:石川県) |
| 2. 切り口 | ・標準化・マニュアル化 |
| 3. 会社概要 | 歴史ある温泉旅館を運営する中小企業。宿泊業は“中抜け”“たすき掛け”など非効率な勤務形態になりやすく、採用難が深刻化すると休館日が増え、稼働率の低下→売上減→人員確保困難の負の循環に陥る。そこで、サービス設計と業務設計を同時に見直し、少人数でも回る運営モデルへの転換が必要になる。 |
| 4. 当初の課題・挑戦 | 【業界構造】人材不足は宿泊のボトルネック。特に、チェックイン前後と食事提供時間に業務が集中し、長時間拘束になりやすい。これが採用難をさらに加速させる。 |
| 5. 取組み・成功のポイント | 【施策】観光庁の事例集では、同社が法定外休暇制度・副業等を含む労務改善に取り組みつつ、ITツール(例:問い合わせ対応の仕組み整備等)で現場負荷を下げる方向に舵を切った事例として整理されている。 |
| 6. 成果・今後の展望(定性+定量) | 【定量(目標例)】事務・現場工数:▲20〜50%、稼働率:+5〜10pt、手戻り・クレーム:▲10〜25%を狙える。労務改善が定着すると、継続(更新)率:+5〜10%(離職抑制)にも波及しやすい。 |
| 7. 補助金・助成金の活用 | 活用済(要確認):事業再構築補助金等を含む公的支援の活用余地が高い領域(業務改善・設備・DX)。/使途例:予約/問い合わせの統合、現場チェックリスト、教育コンテンツ整備/採択の論点:『労務改善→生産性→品質維持→売上確保』をKPIで説明すること。 |
| 8. リンク先(出典) | ②観光庁(国土交通省)事例集PDF: https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001621209.pdf (目次「石川県・加賀市|有限会社吉花」章) |
3. 補足・参考情報欄
関連補助金
- 小規模事業者持続化補助金(HP/チラシ/撮影/予約導線/設備の小規模投資)
- IT導入補助金(予約・会計・CRM・清掃管理・グループウェア・RPA等のソフト/クラウド)
- ものづくり補助金(省力化設備、バックヤード改善、品質・衛生の設備投資)
- 事業再構築補助金/中小企業新事業進出補助金(高付加価値化・新サービス/多角化・業態転換)
- 自治体の観光/DX/省エネ助成(例:都道府県のデジタル化支援、宿泊事業者支援)
DX参考サイト
- IT戦略ナビ/ここからアプリ(中小機構):https://ittools.smrj.go.jp/
- IT導入補助金 公式:https://www.it-hojo.jp/
- 小規模事業者持続化補助金 公式:https://www.jizokukanb.com/
- 観光庁(宿泊業の事例集など):https://www.mlit.go.jp/kankocho/
支援機関
- 商工会/商工会議所(経営計画・持続化補助金の伴走)
- よろず支援拠点(無料の経営相談、販路/DXの壁打ち)
- 自治体の観光課・産業振興課(宿泊事業者向け助成の最新情報)
